kyuinn’s diary

読書感想を個人的につづるブログです。

8の巻~『FinTech入門』

今回は話題のFintechに関する本を取り上げてみたいと思う。

どの本を読むか少し悩んだが、著者自身もFintech企業の代表を務めている下記の書籍を選ぶことにした。

『FinTech入門』著:辻庸介,瀧俊雄 

FinTech入門

FinTech入門

 

 

◆なぜこの本を選んだか

Fintechが至る所で話題になっていたから、理由はこれに尽きる。

それに加えて僕の中では一つの疑問があった。

いわゆるFintech企業に分類されるソーシャルレンディグ、オンライン家計簿サービスといったものは10年近く前から存在したのに、なぜこのタイミングで改めて注目されるようになったのか。


古くから存在する技術が、とあるタイミングでBuzz wordとして拡散することはよくある現象であり(例:クラウドビッグデータ)、Fintechもその類のものと同類なのではないか。

 

Fintechが本当にBuzz wordを超えた何かなのか、僕はそれを知りたいと思ったのである。

 

◆本の内容について

僕の心を読んだように、この本は冒頭でなぜ今のタイミングでFin techに注目が集まってきたのか解説をしてくれていた。なんて親切なんだ。

 

第1に、技術の開発コストが下ったため。第2に、開発したサービスを普及させるコストが下がったため。特にスマートフォンの普及が鍵となりました。第3に、サービスを使うユーザーの目が肥えてきて、サービスに対する期待が高くなってきたためです。

 

技術の開発コストの低下の原因は、以下のように説明されている。要はシステム開発の基礎となるインフラが低価格もしくは無料で提供されるようになってきたということだ。

 

開発コストを押し下げた理由も3つあります。それは、オープンソースソフトウエアの進化、クラウド化、API化の3点です。

 

日本はアメリカほどFintechが普及していない状況にあるが、それは日本の既存の金融サービスの利便性が高いからであり、アメリカの金融機関のサービスはFintechなしでは、ひどい有様らしい。

 

また、アメリカでは旧来からの金融機関がFintech企業を買収するという動きもあるようだが、日本では法規制上、制限があるとのこと

 

出資に当たっては、銀行にはこれまで通称「5パーセントルール」という足かせがありました。これは、金融機関が事業会社に出資する上限は原則5パーセントまでという法律で定められたルールです

 

念のため、法律を確認したところ銀行法十六条の三がそれに該当するらしい。

 

第十六条の三  銀行又はその子会社は、国内の会社(前条第一項第一号から第六号まで、第十一号、第十二号の二及び第十三号に掲げる会社(同項第十二号の二に掲げる会社にあつては、特別事業再生会社を除く。)並びに特例対象会社を除く。以下この条において同じ。)の議決権については、合算して、その基準議決権数(当該国内の会社の総株主等の議決権に百分の五を乗じて得た議決権の数をいう。以下この条において同じ。)を超える議決権を取得し、又は保有してはならない。

 

 

そして著者は金融サービスを「情報サービス」レイヤーと「インフラサービス」レイヤーにわけたうえで前者の領域で多くのFintech企業が登場していると説いている。

ここの説明はわかりづらかったが、おそらく金融セキュリティとかインフラ基幹サービス等の部分を除いた部分が「情報サービス」レイヤーになるのだと思われる。具体的には投資相談業務や金融商品の比較といった業務がこれに該当するだろう。

 

 

中盤以降は各Fintech企業のサービス内容の解説を行っていた。まずは個人資産管理(PFM)サービスについて。

ここでは金融機関APIの提供がさらなる技術の進展につながると言及している。

 

APIが活用できれば、PFMサービスは、いったんユーザーからの意思確認が完了すれば、ログインに必要な情報を預からない形で、より迅速で正確にデータを取得できるようになります 

 

上記は技術的な話で完全には理解できなかったのだが、おそらくは以下のようなことだと思っている。

従来はウエブスクレイピング技術を用いて金融機関の口座情報を見に行っていた。これは、金融機関のログインIDとパスワードを利用して「Web経由」で、個人口座の情報を見に行く手法である(金融機関の同意は得ていない)。技術的にはウェブの表面をなめているだけだから、ページ構成などが変わってしまうと途端に機能しなくなってしまう。

一方でAPIを利用するということは、金融機関の同意も得て個人口座の情報が保管されているサーバー(もしくはそれに準ずるDB)を直接見に行くということであり、前者に比べ安定的に情報を取得することが可能になるというわけである。

 

 

続いてはソーシャルレンディングの話題

日本でも何社か営業を行っているが、個人の信用調査の対象に友人を含めるケースがあるらしい。

ソーシャルネットワークの情報を活用するような融資の形も生まれています。ドイツのノンバンクのクレディテック(Kreditech)などは、Facebookの友達情報などを参照しながら、クレジットスコアが高い友人が多い人の信用度を高く評価するモデルを有しています

類は友を呼ぶというやつである。

発想としては非常に賢いと思うが、こういうサービスが広がると友達ですら戦略的に作らなくてはならなくなり、階級の分離を生む気がする・・・

 

現在のところ日本ではまだ「1対1のソーシャルレンディング」は制度上認められていません

 

貸金業法が根拠らしく、調べてみたところ

特定の個人の資金供出者が「1対1のソーシャルレンディング」を反復して行うと、

①金銭の貸付を

②「業として」行う

とみなされ、貸金業者として登録が必要になってしまうらしい。

なので現行の日本の法規制下ではファンドを噛ませることで法規制を回避しているとのことである。

ソーシャルレンディング業者が、複数の会社を所有して役割を分担させているのは知っていたが、今回は事情がわかってすっきりした。

 

 

そして最後はFintechの中でも最もBuzz word化が進んでいるのではないかと思われるブロックチェーンの話

このブロックチェーン何が優れているのか。

金融取引を裏付ける重要な機能である「データを正確に、かつ効率的に安価に保存する」という点において、現在のインフラを一新するような、大きな革新をもたらす可能性があります

 

データを正確に保存する技術においては、「分散型台帳」システムが主流?であるらしく、切り口により4つのタイプに分けられるとのこと。

 

分散型台帳システムは、それがパブリックなものであるかプライベートなものであるかという軸と、保存されるデータの真実性を、技術的な性質で解決しているか(トラストフリー)、ルールに基づく合意(コンセンサス)で解決しているか、という2つの軸で分類されます。

 

そしてブロックチェーンはパブリックでトランスフリーな分散型台帳に位置づけられる。パブリックでトランスフリーな分散型台帳とは何ぞやという説明がこの先に続いていたのであるが、正直よくわからなかった。

 

ほかの文献で調べてみたが、要するに取引台帳がいたるところに分散されて保管されているため、それを同時に改ざんすることができない限り、信頼性が確保される仕組みということになるらしい。

そしてこのブロックチェーン技術を用いているのが、かのビットコインであり、ビットコインの流通は送金にかかる銀行の仲介手数料を完全に消し去る可能性を秘めているため、今後の発展が大いに期待されている。

 

ただしビットコインは最新の取引記録にあたる「ブロック」を10分に一度の割合でしか生成していないため、現状では金融機関の高速取引には応用できないらしい。

現在、金融機関の多くが関心をもっているのは、「プライベート型でコンセンサスベースの分散型台帳システム」です

 

本の締めでは今後の社会展望が記載されており、ソーシャルアセットについて触れられていた。この話は興味のあるところなので、次回以降別の書籍で考えてみたいと思う。

今までは、お金というものだけでしか、その人やモノがもつ本質的価値を算定できませんでしたが、例えば、SNSで人間関係の可視化が進んだ今、誰とつながっているか、人的ネットワークの質や量を資産として評価するソーシャルアセット(社会的資産)の価値もある程度算定できるようになりました。

 

◆どう実生活に応用するか

やはり一番気になったのはソーシャルレンディングのところだ。お金の貸し借りに限らないが、「個人で信用を確立する」というお題は今後、非常に重要になっていくと考えている。

Facebookで有名人とつながるだけで有利に働くのであれば、実態の信用をかさ増しすることも可能である気がするのだが、それに対してはどのように対処しているのだろうか。非常に興味深いところである。