5の巻~『さあ才能に目覚めよう』
今回は前回に引き続き、「統計学が最強の学問である(実践編)」の後半部分について感想を書こうと思ったのだが、数学寄りの話がつづいて少々飽きてしまった。
なので気分を変えて、違うジャンルの本の感想を記したいと思う。
今回のお題は有名な
『さあ才能(自分)に目覚めよう』著:マーカス・バッキンガム / ドナルド・O・クリフトン
である。
さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
- 作者: マーカスバッキンガム,ドナルド・O.クリフトン,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2001/12/01
- メディア: 単行本
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◆なぜこの本を選んだか
僕は自己啓発本のジャンルに属する本は(今は)あまり読まない。なぜかというと過去に多く読んだ体験から、大して得るものがないという感想を持っているからだ(気分を一時的に高揚させる効果だけはある)。
この書籍についても、そちらのジャンルに属すると思っていたため、有名ではあるもののこれまでずっとスルーしてきた。
ただ一方で、自己啓発本の効用について僕と似たような所感を頂いているブロガーの人の何人かがこの書籍については強く薦めていたので少々気にはなっていた。
ところで最近の僕の悩みなのだが、本当に時間が足りない。おそらく物事の取捨選択がしきれてないからだろう。時間効率を最大限に重視して「やるべきこと」と「やらないこと」の境界線をはっきりさせることの重要性は、以前から知っていたことではあるが、最近はよりシビアに進めないとまずいと痛感している。
そしてその境界線をはっきりさせる上では、自分の価値を最大限に高めるようにするのが最も合理的である。
「やるべきこと」は自分の才能のあること、得意なことのほうがよいに決まっている。
自己啓発本に対する懐疑心を抱きながらもこの本を手に取ったのは、上記のような理由があったからである。
◆内容についてのざっくり感想
多くの自己啓発本が役に立たないと僕が思っているのは下記のような特性を持っているからである。
1、述べられている技術に俗人的なものが多く、汎用的に展開しづらい。
2、著者の感想でしかない、よって他の著者が矛盾することを述べてことがある。
3、背景となるビジネス環境が古い、昨今は世界規模でビジネスを展開していく必要があるのに、対日本人にしか通じないのではないかと思われる意見を展開している。
一方でこの書籍については、科学的な手法を用いて才能を分類するという手法が展開されており、客観的で納得のある言論となっていた。
よってこれは自己啓発本とは違うジャンルの本であるといえるだろう。僕は間違った決めつけをしていたようである。
まずこの書籍はなぜ個人が強みを自覚することが必要なのかを以下のように述べている。
1、人の才能は一人ひとり独自のものであり、永続的なものである。
2、成長の可能性を最も多く秘めているのは、一人ひとりが一番の強みとして持っている分野である。
ここでいう強みとは以下のように定義される。
「強み」とはひとことで言ってしまえば、「常に完璧に近い成果を生み出す能力」のこと
また「強み」の特性、および「強み」を利用して強固な人生を築くのに大切な原則を以下のように述べている。
強みは首尾一貫することができて初めて、真の強みになるということだ。
安定性があってこそ成果も予見できる。
真の強みは真の満足感をもたらす。
満足のいく成果を得るには、自らの職務に関わるすべての業務に適した強みを持つ必要はない。
「弱点を無視しろ」とは言っているのではない。・・・(中略)・・・弱点とうまく折り合いをつけ、強みを解き放ち、より鋭いものにした。
そして真の「強み」は才能から生み出されるものであり、自分の現在の「強み」が以下の三つのどれに分類されるのか区別することが有用と述べている。なぜなら、知識と技術は他の人も容易に取得できるのであるから、強みの軸にはなりえないからである。
才能とは、無意識に繰り返される思考、感情、行動のパターンである。
知識とは、学習と経験によって知り得た真理と教訓である。
技術とは、行動のための手段である。
逆に、才能を上記のように定義したのは、脳のシナプスの特性と関係しているからである。
人間は脳の中に無数のシナプス結合をもっており、人によって得意な回路が異なる。そして繰り返されて使われるシナプス結合はより強くなるという特性をもつ。
したがって日々の行動の中で、自身のもつ得意なシナプス結合を可能な限り利用することが、「強み」の最も良い強化方法であると著者は考えている。
その才能であるが、本書籍では34に分類されており、20分程度のWEBテストで上位5つの才能を知ることができる。
僕の場合は以下の5つであった。
「学習欲」「達成欲」「収集欲」「最上志向」「親密性」
掻い摘んで各性質の特徴を述べると以下のとおりとなる。
「学習欲」
あなたはいつも「学ぶ」プロセスに心惹かれます。内容や結果よりもプロセスこそが、あなたにとって刺激的なのです。・・・(中略)・・・短期にたくさんの新しいことを学ぶことを求められ、そしてすぐにまた次の新しいプロジェクトに取り組んでいく必要のあるような職場環境で力を発揮します。
「達成欲」
あなたは自分自身に満足するために、一日が終わるまでに何か具体的なことを成し遂げなければなりません。・・・(中略)・・・長い時間燃え尽きることなく働くために必要なエネルギーを、あなたに与えてくれます。
「収集心」
あなたは知りたがり屋です。・・・(中略)・・・あなたはものや情報を手に入れ、集め、整理して保管し続けます。
「最上志向」
優秀であること、平均ではなく、これがあなたの基準です。・・・(中略)・・・あなたはあなたの強みを高く評価してくれる人たちと一緒に過ごすことを選びます。同じように、自分の強みを発見しそれを伸ばしてきたと思われる人たちに惹かれます。あなたは、あなたを型にはめて、弱点を克服させようとする人々を避ける傾向があります。
「親密性」
あなたはすでに知っている人々とより深い関係を結ぶ方向に引き寄せられます。・・・(中略)・・・あなたにとって人間関係は、それが本物であるときのみ価値を持ちます。そしてそれが本物であるかどうかを知る唯一の方法は、相手に身を委ねることです。
親密性に対しては、多少違和感もあるが他は概ね納得の結果である。他に「着想」や「戦略性」という才能があり、そちらも持っていると嬉しかったのであるが、とりあえずは素直に結果を受け入れることにしよう。
そして強みを築く上での障害には以下のものがあると述べている。
1、弱点に対する恐怖
→弱点を克服せずに放置しておくことに対する恐怖
2、失敗に対する恐怖
→得意分野を明言し、その分野で失敗してしまうことに対する恐怖
3、真の自分に対する恐怖
→これまでの成果についてそれが「強み」ではなく、偶然の産物によってもたらされたものなのではないかと思ってしまう恐怖
特に皆が気にしがちな弱点の取り扱いについては以下のように述べられている。
われわれは弱点とは「すぐれた成果を得るのに妨げとなるもの」と定義づけた。・・・(中略)・・・たいていの人は・・・(中略)・・・「進歩が望めない分野」という定義を支持するはずだ。・・・(中略)・・・現実に即して考えると、「進歩が望めない分野」はだれにでも数えきれないほどあるだろうが、その大半が気にしなくてもいいものばかりだからだ。そういった逆転はすぐれた成果を収める妨げにはならない。
弱点を抱えることがわかった場合、・・・(中略)・・・その弱点が技術に関する弱点か、知識に関する弱点か、才能に関する弱点かを見きわめる必要がある。
どうすれば自分に欠けているものが才能ではなく、技術や知識だとわかるのか。・・・(中略)・・・必要な知識と技術を身につけてもなお、標準以下の成果しか上げられなければ、あとはもう才能の欠如しか考えられない。
そして弱点が才能に基づくものであれば、以下の5つの策を試してみるとよいとしている。
①少しでも良くする、②サポートシステムをつくる、③才能の力で弱点に打ち勝つ、④パートナーを見つける、⑤とにかくやめてみる
そして今度は他人から見たときに、34の強みを持つ人それぞれにどのように接するべきかの記載があった。
逆言えば、自身をこのように取り扱っていくことで心地よい環境を構築できるということだろう。
「学習欲」を強みとする人の活かし方
・状況が刻々と変化する分野で、その変化に即応しなければならない職務を任せる。
・「販売の第一人者」や「部内の専門家」になることを促し、・・・
・同じ分野の第一人者のそばで仕事をさせ、・・・
・企業内の討論会やプレゼンテーションを取り仕切るように促す。
「達成欲」を強みとする人の活かし方
・臨時の仕事が発生したとき、この人に任せるといい。
・仕事のできない人と組ませてはいけない。「さぼり屋」はこの人の天敵だ。
・一つの仕事を終えたからと言って、休息や単純作業を与えることは、この人にとってねぎらいにはならない。
「収集心」を強みとする人の活かし方
・企業にとって重要な問題を調査させる。
・常に企業内のニュースを伝える。内情に通じていることに自分に満足を覚えるタイプだからだ。
・集めた情報を蓄積するシステムづくりを促す。
「最上志向」を強みとする人の活かし方
・失敗に終わったことをもう一度立て直すことには、あまり意欲を示さない。
・強みを企業の利益につなげるにはどの部署で、どういった業務にあたればいいか、本人とよく話し合うことだ。
・この人は自らの強みが活かされる道を無条件に選ぶ。収入は増えても強みが活かされない道を選ぶことはまずない。
・従業員一人ひとりの業績を評価し、それぞれに応じた賞与を与えるための査定プログラムが必要になったら、この人に任せるといい。各職務において優秀さとはどのように見えるものか、進んで考えてくれるだろう。
「親密性」を強みとする人の活かし方
・この人に好感を抱いているようなら、はっきりとことばにして伝えるといい。
・同僚一人ひとりの目標をこの人に伝えておく。そうすれば、この人はさらに強い絆を同僚と結ぶことができるようになるだろう。
・この人が持つ包容力も一つの武器だ。その包容力を見て、それがどれほど同僚たちに影響を与え、強い絆の一因となっているか、本人にもよく伝える。
ここから先の章では強みを生かした企業をつくるにはどうすればよいのか。人事制度に踏み込んだ提言がされていた。今回の僕の読書の目的からは外れるが非常に興味深かったので、以下に記載しようと思う。
まず原則として以下の四つを意識したシステム作りが大切だとする。
・個々の従業員を型にはめ込むのではなく、あくまで最終的な結果に重きを置くべきだ。
・適切な人材を確保するには、かなりの時間と資金を費やしてでも最初の採用で厳選しなければならない。
・研修にかける時間と資金は、従業員の弱点を矯正して、スキル・ギャップを埋めるのではなく、一人ひとりの強みを発掘し、それを伸ばすために費やすべきだ。
・強みを活かせない業務を与える可能性のある従来どおりの出世の階段にこだわることなく、従業員のキャリアパスを用意しなければならない。
そして人事システムの各段階で気をつけることは以下のとおりと述べている。
【採用】
・人の才能は、後から変えることができないという前提のもと、心理測定学的に信頼できる手法で事前に才能を図っておく
・各職務についてどのような才能がマッチするのか、各業務において最も優秀な人材を選んで観察し、それを採用にフィードバックしていく
・才能を表現する言葉を企業内で周知徹底する
・全企業の「資質プロフィール」をリストにする
・才能とそれが生む出す成果のとの関係を調べる
【育成】
・強みは三方向(対業務、対顧客、対従業員)に発揮されることを知る
・トレーニングに対して望ましい成果が得られたかを正しく測定する基準を定めること
・個々の従業員のパフォーマンス採点表をつくること、これは各業務における成功を定義する意味でも有効である
・従業員一人ひとりと強みについて話し合うこと。これは従業員の忠誠心を高める効果があるとともに、従業員が短期の目標を達成し続け、マネジャーがその成果に価値を与えることで緊張感を持続させるという効果ももつ
【キャリア開発】
・名声欲が人間にとっておそらく最も強力な動因だと認識する
・よって名声が得られるように組織をつくる、具体的にはヒエラルキーの段階を増やす、同じヒエラルキー内でも給与格差を設ける、表彰の機会を設ける等
・名声を得たい、各従業員が自分でも手が届くと思うような仕掛けをつくること
◆どう実生活に反映させていくか
冒頭に書いたとおりこの書籍に期待したのは、僕が持つ才能を明らかにしてそれを仕事に活かすことである。
結果は上記のとおりであったが、5つの才能をまとめた方策を練ると、以下のような感じになるのだろうか
1、特定の分野の第一人者となるべく、学習に取り組む
→学習欲、収集心、最上志向の帰結
2、特定の物事に集中して長く取り組むより、ある程度の期間で新しいことに取り組ませたほうがよい。
→学習欲、達成欲からの帰結
3、一緒に仕事をするメンバーを頻繁に変えるのではなく、ある程度固定したほうがよい
→親密性からの帰結
どこまで信じていいのか難しいところであるが、少なくともこの手の種類の仕事に対してあまりストレスを感じないは間違いない。
とりあえずはこれを信じてこの一年間はやってみるのが良いのだろうか。
幸いなことに、学習欲の提言にあったとおり、社内社外講演の両方が今年はスケジューリングされているので、それを通じて自分の特性は測れそうである。
また自らの取り組みとして、自分の所属業界に関するリサーチを行ってそれをブログメディアで外部に発信していくということも、やってみたいと思う。
後半部分の組織作りの話も自分が人事政策をコントロールする立場になったら役に立つだろう。
このように科学的に才能を発見し、分類するという取り組みを一体どれだけの日本企業が行っているのだろうか。
おそらくほとんどの日本企業はやっていないのではないかと思う。僕は新卒採用時にそれなりに名の通った企業も受けたことがあるが、少なくともそこの企業では採用時に才能を分類するという取り組みはなかった。
これは日本企業が進んでいる劣っているの問題ではなく、日本企業はメンバーシップ型雇用を前提としているため、個々人の才能は採用後に判定し、適切な部署に配置することでリカバリーすればよいとの考えがあるからだろう。
逆に現在、自分は外資系の会社に所属しているのだが、多くの外資系企業では採用時に職務が固まることから、この書籍での提言内容と似た取り組みを行っている。前々から良い制度だと個人的には感心していたのだが、今回この書籍で理論的裏付けが取ることができた。
◆その他
先週の反省に拘わらず、またブログが長くなってしまった・・・
今回の書籍の内容にも関係があるが、これは僕の「収集心」に関係があるような気がする。
特に顕著なのが、この書籍の後半部分の組織作りの話題の取り上げ方についだ。上述のとおり、この内容は僕の今回の読書の目的からは外れている。
当初の目的にまっすぐにブログを書くのであれば、この内容は省略するべきである。そうすればブログを書く負担はおそらく減る。
一方でこのブログを僕の「収集心」を満たすための知識DBとして使おうと考えているのであれば、記載しておくべきだろう。
仕事であれば、余計な時間を割かないように前者のスタンスで取り組むのであるが、これは個人ブログだからなぁ・・・難しいところであるが、後者のスタンスで問題ない気はしている。第三者からみると、まとまりのない文章にみえて読みづらいのだろうけど。